「わかった」にはレベルがある。


数学の問題を解くにあたり、
「わかる」→「できる」→「速くできる」の順に、自分のレベルを進歩させることが大切
などと話すことはあります。

ここでいう「わかる」は例題が理解できた。
「できる」は例題に沿った練習問題を、例題の手順に従って解答がつくれる。
といった状態を想像されると思います。

先生の言うことは理解できる、教科書の問題も例題に沿いながら解くことができる。
解けなかった問題も、解答や解説は読めばとふつうに理解できる。

この段階は「わかる」ではあるのですが、浅い「わかる」かもしれません。
この段階だと、出題範囲が決まっている定期試験ではなく、
実力試験、模擬試験のようなちょっと見たことの無いような問題に遭遇したときは
点数が取れないことが多いです。

例題や解答をみたとき、
「そうやればいいのね」と思う人、活字を理解する人→ これは浅い「わかる」レベル

このレベルで100問題、200問題こなそうが、力はつきません。

一方、
「なんでそうしたの?」
「なぜそうしなければならなかったの?」
「ははーん。そういうことね。」
「そのために、そうしたのか~」
「だから答えが出るのか!」
「この問題うまくできているなあ」
こんなことを考えて、例題や問題解答を見る人 → これは深い「わかる」レベル

書いていないことに気づこうとする意識、つまり行間を読むということが大切です。
行間を読むのは国語(ドラゴン桜でも紹介されていました。)の場合だけでは無いんですね。

数学の解答の行間には、解答作成者の頭で考えたことや出題者の思いがたくさん書いてあるのですが、
それは見える人にしか見えないのです。

行間は「なぜ」と追求することにより、見えてきます。
問題をたくさん解くよりは、一つの問題をなぜ?どうして?と骨のズイまでしゃぶりつくす意識が大切です。


講師側から一方的に、
その式を作った意味、作るための条件、
その変形のありがたみ、その公式のありがたみ、

を説明しても、効果は少ないですね。

これが集団塾で成績が伸びないお子様が多い理由だと思います。

いわゆる「受身」ということになるのでしょうか。

「自分できがつくこと」、「自分からそう思うこと」が一番大切です。


ですから、私は生徒さんの理解レベルに応じタ内容に対して、
「何でこの式が必要なの?」
「なんでこの式ができたの?」
「未知数を含む方程式を作りたいけど、どうしたらいい?」
「何でそういえるわけ?」
と気付かせる質問をします。

沈黙が続いてもじっと我慢します。
(この間は、生徒さんが自分で頭を一生懸命回している時間です)
ちょっとヒントを出したりもします。

生徒さんが自分で気が付いた瞬間は、発見の喜び、なにかパッと心が明るくなる感じ、満足感が得られ、
それは自分への自信にもつながります。生徒さんはプチ成功体験を味わえるわけです。私としては生徒さんが、がんばればできそうなレベルの質問を与えます。同じ質問でもできるお子様には質問を多少抽象的に与えたりすることもあります。ちょっとがんばれば超えることができるハードルをその時々で与えていきます。

今度中3になるSさんは、三角形の証明問題がわかるようになってきたといいます。
自分で
「示したいことは、この角とこの角がひとしいことをいえばいいだ。」
と目的をはっきり認識する。
そのためにはどうして進んでいったらいいのだろう。

「合同ならば対応する辺や角はひとしいんだ。」といえるから

「合同を言えばいいんだ」なと思う。

合同がどうかを示すには、

「合同条件をいえばいいのだな」

じゃ、

「合同条件を成り立たせるためのネタをそろえないといけないな。」と思う。

じゃ、
「ネタはどこにころがっているんだろう」

「合同条件に関係ないところを見ていても意味が無いし、合同条件が成り立つ辺や角度がみつかればうれしいなあ。」

3角形がいっぱい図形の中にありすぎたり、3角形がぜんぜんなくて四角形などがあったり、どの三角形を2つ選べばよいのだろう。こまったなあ」

「結論(関心の在る角度や辺)が入っていない三角形を選んでも無意味だから、それらに関係がある三角形を選ばなければいけないな」

「しかも、与えられた仮定や、条件を多く含んでいる三角形を選んだほうが、合同条件のネタを集めやすいぞ!!」

「示したい結論は、正しいとは限らないので、当然ネタとして、使ってはいけないな。」

こんなことを考えることができるようになったのです。
三角形の証明問題の解答は活字では8行程度で終わるのですが、これだけの行間が隠されているのです。

行間を発見することは楽しいし、問題に対する感動もあります。また行間は一度見えるようになると
次々と見えるようになります。これが数学が好きになる瞬間、数学ができるようになる瞬間です。
数学ができる人とできない人の間にある高い壁をポーンと一気に飛び越える瞬間です。


----- 最後に、私が証明問題のセクションを終えて生徒さんに質問した内容を紹介致します。------
大体この質問の最後に、「それはどうしてですか?」「どうすればいいんですか?」と生徒さんに尋ねてみて、答えられるようでしたら、完全にわかっているといえるでしょう。

・次に同じような問題が出たら、解けますか? どうやって解きますか?イメージがわきますか?

・なぜ証明できたのか?原理的な部分は理解できましたか?

・証明の流れは理解できましたか?

・3角形は6つの情報(3つの辺と、3つの角)を持ちますが、3つの情報から6つの情報はどうやったら引き出せますか?

・わかっている3つの情報(角度や辺)から三角形の持つ6つの情報のうち、わかっていない3つをも明らかにできることが、合同を示す”うまみ”であると思えますか?

・合同であることを示すにはどうすればいいですか?

・合同を示すためのネタは、何個必要ですか?

・示したい結論が入っている三角形を選ばないと意味が無いということは理解できましたか?

・示したい結論を、合同を成り立たせるネタに使うことはありえないというのは納得できますか?


ご参考になれれば幸いです。